「――花々里《かがり》。確かに鳥飼《とりかい》はハンサムだけどね。さすがに目の前で僕以外の男に興味を持たれるのは面白くないんだけど?」
私は今、怖ぁ〜い顔をした頼綱《よりつな》に壁際に追い詰められています……。ひーん。
口調も「僕」だしっ。 ねぇ頼綱。 私、別にあの人に興味なんて持ってないよ? ヤクザ屋さんじゃなかったんだ!って思っただけだし。 こんなキラキラした頭の研修医がいる病院ってすごいなって感心しただけだよ!? それにあの綺麗な金色を見ていたら……。じゅるり……。
思わず生つばが込み上げてきて、私は慌てて口の中ににじみ出てきた唾液を嚥下した。そもそも――。
「私、顔は断然頼綱の方が好……」 思わず要らないことを言いそうになって、慌ててブンブン首を横に振った。 「好みの顔」=「好き」じゃない。「好みの顔」=「好き」じゃない。「好みの顔」=「好き」じゃない。 自分に言い聞かせるように心の中で3回そう唱える。 何で3回なのかは自分でもよく分かんないけどああ言う系は大抵「3」だと相場が決まっているもの。わーん。雨宮《あまみや》さん(の奥様?)、早くオーダー取りに来てぇ〜!
追い詰められた私は助けを求めて障子戸を見つめずにはいられない。
それがまた、頼綱には鳥飼さんを求めているように見えて?気に入らなかったみたい。「言っておくけどね、花々里。鳥飼はダメだ。あいつはひとりの女と長続きした試しがない」言われなくても見た目で十分判りますっ。
っていうか私、そんな目であの人のこと見てませんし。 強いて言うなら――。「天ぷら……」